胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状・原因・治療方法
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胃や十二指腸の壁が傷つき、部分的に欠損した状態が潰瘍です。胃にできた場合を胃潰瘍、十二指腸にできた場合を十二指腸潰瘍といい、両者をあわせて消化性潰瘍といいます。
消化性潰瘍は好発年齢が胃がんにくらべて若年であり、胃では中ほどの屈曲している「胃角部」、十二指腸ではその始まりのふくらんだ部分である「球部」に好発し、しばしば1つではなく多発します。またあたたかい時期よりも冬季に発生し、季節的に発生頻度に差があることも特徴です。
症状
消化性潰瘍の症状の代表的なものは心窩(しんか)部(みずおち)の痛みで、時には背中に抜けるほどの痛みとなります。
潰瘍が深くなると出血を伴うことが多く、一時期に大量に出血すると口から血を吐いたり(吐血)、便に出血したり(下血)しますが、比較的ゆっくりとじわじわ出血が続く場合には出血した赤血球中のヘモグロビンが酸化されて便がまっ黒になりタール便と呼ばれ、胃や十二指腸からの出血に特徴的です。
また近年、食べた肉由来の血液でなく便中の自分の微量な血液も検出できる便潜血検査法が確立され、定期検診での便検査が発見のきっかけとなることもあります。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の痛みの発生する時刻には違いがあり、胃潰瘍では胃の中に食べ物が入った状態で痛みの発生することが多く、食後早い時間に痛みが発生します。
これに対して十二指腸潰瘍では胃の中が空である空腹時や夜間に痛みが発生することが多く、食事によって痛みがやわらぐ特徴があります。
痛みが急激に強くなり立っていられず、少しでもおなかをさわると飛び上がるほどの強烈な痛みが起きた場合は、潰瘍が非常に深くなり胃や十二指腸の壁に孔(あな)があいて〔穿孔(せんこう)〕、胃や十二指腸の内容液が外へ漏れだし腹膜炎となった可能性が高いので、一刻も早く手術のできる病院に行ってください。
また胃の出口に近い場所や十二指腸の入り口の部分に潰瘍ができ、慢性的に潰瘍の再発をくり返していると、潰瘍の傷あとがしだいにかたくなり壁が厚くなって食べ物の通り道が細くなり〔狭窄(きょうさく)〕、食べ物の通過に支障をきたすことがあるので、手術をしなければならないこともあります。
原因
消化性潰瘍の原因としては古くから様々な考え方があり、さらに近年はヘリコバクター・ピロリも原因の1つとして重要視されています。また急性胃粘膜病変と同様に非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)も消化性潰瘍の原因とされています。
胃はペプシンという消化酵素と塩酸を分泌しますが、これらの消化作用は非常に強力です。ペプシンと塩酸の強力な消化力で胃の壁自体も消化されそうに思われますが、実際にはそのようなことは起きません。
胃の粘液分泌や胃の粘膜の血流などが防御因子となり、この攻撃因子と防御因子のバランスがうまく保たれることによって、胃は自らの消化液で傷つくことを防いでいるのです。
しかし、攻撃因子が増強したり防御因子が減弱したりして、このバランスがくずれて攻撃因子が優勢になると、胃の粘膜が傷つき、さらにその傷が深くなり潰瘍に至ると考えられています。
これが古典的な消化性潰瘍発生のメカニズムと考えられていましたが、近年のヘリコバクター・ピロリの発見によって難治性潰瘍や再発性潰瘍に対する考えかたは一変しました。
ヘリコバクター・ピロリは胃酸が分泌される過酷な胃内の環境で生存・増殖が可能な細菌の一種であり、胃の粘膜に感染を起こすと炎症を引き起こし、さらに粘膜を傷害して、ついには潰瘍を形成するという考えかたがほぼ受け入れられるようになりました。
今日では再発をくり返す慢性消化性潰瘍の原因の多くは、ヘリコバクター・ピロリではないかと考えられています。
また直接的にではなくても間接的に消化性潰瘍の誘因となるものには、喫煙、飲酒、ストレス、過労などが考えられており、これらは潰瘍をわるくする方向にはたらきますので注意しなければなりません。
診断方法
消化性潰瘍の検査として重要なのはバリウムによるX線検査と内視鏡検査です。潰瘍は消化管の傷ですからX線検査ではその傷口にバリウムがたまって診断することができます。
また潰瘍のあと〔潰瘍瘢痕(はんこん)〕などもX線検査で胃や十二指腸壁のわずかな変形として診断できます。
しかし診断の精度が高く、またがんとの鑑別に威力を発揮するのは内視鏡検査です。潰瘍の深さや出血の有無は直接肉眼で観察できる内視鏡検査が優れていますし、現在出血していることが疑われる場合には、まっさきに内視鏡検査をおこなわなければなりません(緊急内視鏡検査)。
実際に内視鏡検査をおこなうと、細い血管から出血していることが肉眼で確認され、出血部位を内視鏡用の特殊な小型金属クリップではさんで止血したり、止血のための薬剤を注入・散布したりして出血をとめることができ、たいへん有効です。
治療方法
十数年前までは消化性潰瘍の治療の主役は手術治療でしたが、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の出現によって手術治療の必要な症例は激減しました。
近年さらに強力なプロトンポンプ阻害薬(PPI)が開発され、消化性潰瘍の治療はむかしの外科的な「手術治療」から内科的な「薬の治療」へと大きく変貌しました。
メモ
胃潰瘍そのものが胃がんに変化することはないと考えられていますが、早期胃がんのうちのあるものは良性潰瘍に似たかたちをとることがあり、注意が必要です。
また潰瘍の痕跡と思って内視鏡で組織を採取して顕微鏡で病理学的に検査したところ、がん細胞が認められたなどということも実際の臨床では経験されることであり、潰瘍であるといったん診断されてもけっして油断はできません。
したがって潰瘍や潰瘍の痕跡があると指摘された場合は、必ず一度は内視鏡検査を受けて胃がんを否定しておくことが望ましいと考えられます。また消化性潰瘍をくり返す難治性の場合、今後はヘリコバクター・ピロリの検査も治療法を決定するうえで重要な情報になるでしょう。